今さら聞けない「DHCPの基本」 連載1回目 [前編]

無線LANトラブルの背景にDHCPあり!?

近年、個人だけでなく企業でも無線LANの利用が当たり前になってきた。企業の無線LANには、ノートPCだけでなく、スマートフォン、タブレットなどのモバイル端末やIoT機器など多様なデバイスが接続されている。そのような中、頻発しているのが「無線LANがつながらない」、「速度が遅い」、「通信が頻繁に切れる」といった問題だ。
この問題の原因、実は「DHCP(Dynamic Host Configuration Protocol)」にあるかもしれない。本連載では、今なぜDHCPを見直すべきなのか、その理由を探っていく。

ワークスタイル変革やIoTで社内IPアドレスが急増

 昨今では、個人だけでなく企業でも無線LANの活用が活発になっている。企業の無線LANにはノートPCをはじめ、スマートフォンタブレットなどのモバイル機器が接続されている。それに加えて、最近ではIoT機器も企業のネットワーク環境に接続しているケースがあり、無線LANによるスムーズな通信は、企業にとって不可欠な要素となっている。

 しかし、このような状況にあっても、無線LANにうまく接続できなかったり、接続できても速度が遅かったり、通信がよく切れたりするといったようなトラブルが発生するケースは少なくない。

 無線LAN関係のトラブルが発生した場合、真っ先に疑われるのは無線LAN機器の不具合だ。例えば周辺の無線LANと干渉していたり、アクセスポイントの処理能力を超えるユーザー数がアクセスしていたりすると、端末がうまく接続できなくなってしまう。これらのトラブルを解消するため,無線LAN機器をリプレースしたり、電波が届く範囲を見直したりする管理者もいるが、それでも無線LAN環境の不具合が改善されないケースが存在する。

 前述のような通信不良の原因は、ついつい無線LAN機器側にあると考えがちだが、実は見落としがちな原因がもう一つ存在する。それは「DHCP」の不具合だ。

 DHCPとは、ネットワークの各クライアントにIPアドレスやサブネットなどの情報を自動的に割り当てるための仕組みだ。この仕組みによってIPアドレスを端末に自動で割り当てる機能を持つサーバーを「DHCPサーバー」と呼ぶが、このサーバー側に問題が発生することでもネットワーク全体が不安定になるケースがある。

IPアドレスは、ネットワークを接続するための番地に例えられる。このIPアドレスが端末に割り当てられなければ、(仮にネットワーク機器が正常に動作していたとしても、)通信を行うことはできないのだ。

DHCPの仕組み

サーバーOSやネットワーク機器に付属するDHCPサーバーの限界

 企業のDHCPサーバーはどのように構成されているのだろうか。最も多いのがWindows Serverに備わっているDHCPサーバーを利用するケースであり、次に拠点などでルーターやスイッチなどに備わっているDHCPサーバー機能を利用するケースだと思われる。ネットワーク設定の一部に近い感覚で手軽に利用しているユーザーも多いはずだ。

 このようにDHCPサービスをWindows Serverやネットワーク機器に任せてしまうことは、ITコストを抑えるという点では最適解といえるかもしれない。しかし、ネットワークインフラの重要サービスであるDHCPには、コスト以外にも大切なポイントがある。

 それは「安定稼働が可能か?」というポイントだ。DHCPサーバーにまつわるトラブルの典型例として、オフィス内を移動しているうちにIPアドレスを取得できなくなるというケースがある。本来はネットワークセグメントが変わったときにDHCPサーバーから新しいIPアドレスを取得して、ネットワーク接続を継続させているが、DHCPサーバーが停止してしまうとIPアドレスが割り当てられなくなり、ネットワークへの接続ができなくなってしまう。

また、DHCPの不具合はネットワークの遅延の原因にもなり得る。従業員がクライアント端末を複数台所持するようになったことで、DHCPサーバーへの負荷が高まり、IPアドレスの割り当てが遅くなるという現象が発生するのだ。このほかにも、CPUリソースをDHCPサービスが占有してしまい、Windows ServerのActive Directoryなど肝心な機能がうまく動かなくなるトラブルも考えられ、DHCPサーバーの不具合一つでITシステム全体に問題が広がる可能性も出てくるのだ。

DHCPトラブルで社内業務はストップ

企業の新しい取り組みに欠かせない、DHCPサーバー

 このような通信負荷の原因となっているのは、前述したクライアント端末数の増加が大きい。従業員1人にPC1台の時代に設計されたDHCPシステムでは1人複数台の現状が想定外の規模となっている可能性があるのだ。加えて、昨今ではネットワークカメラをはじめとしたIoT関連機器を社内で運用しているケースもある。それによって、システムの限界を大きく超えた端末数となっている可能性があるのだ。

 IPアドレスの割り当てが不安定な状態は、今後社内でIoT化やワークスタイル変革などの取り組みを進めていく上での重い足かせとなる。その一方で、十分な性能と機能を有するDHCPサーバーは新しい働き方や業務を支えるためのキーデバイスになり得る。安定したネットワークインフラが整備されれば、安心してスマートフォンを内線化してIPフォンとして利用したり、タブレットを社内外の様々なネットワークで活用したりできる。DHCPサーバーのパフォーマンスや安定性によるシステムの信頼性の向上は、単にトラブルを避けるだけでなく、ワークスタイル変革などの新しい取り組みを支える基盤にもなるのだ。

 それでは、DHCPサーバーに起因する課題を解決し、新しい取り組みに向けてどのような対応をすればよいのか。詳しくは本連載1回目後編にて解説したい。

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