Dell Technologies World 2018 Review
DXを実現するテクノロジーの未来と現在

今年4 月30 日から5 月3 日まで米ラスベガスで開催された「Dell Technologies World 2018」は、デジタルトランスフォーメーション(DX)を促す最新テクノロジーのビジョンをDell Technologies と1 万4,000 人の来場者が共有する場となった。第四次産業革命下において要求されるビジネス戦略や技術トレンドなど、Dell Technologies World 2018 で語られた詳しい内容について、デル・EMC の担当者に解説していただいた。

1. Keynote

データは燃料、コンピュートはエンジン

黒田晴彦 氏
デル 最高技術責任者(CTO)

 Dell Technologies World 2018 は、Dell Technologies として初めて開催したイベントです。グループ企業であるVMware も、CEO のパット・ゲルシンガーやCTO のレイ・オファレルがキーノートに登壇するなど、大きな存在感を示しました。日本でお客さま向けに実施した前夜祭には、Dell Technologies CEO のマイケル・デルが参加し、日本市場に対する大きな期待を表明しています。

 Dell EMC Worldとして開催した2016年と2017年の過去2回のキーワードは、「Let the transformation begin.」と「Realize」でした。それが、2018 年の今年は「Make it Real」へと変化しています。デジタルトランスフォーメーションが現実のものになってきているからです。そして、今回のDell Technologies World 2018 は、世界中で人類の進化を牽引しているテクノロジーのビジョンを共有する場になりました。

 デジタルトランスフォーメーションによる企業の進化の例としてDell Technologies World 2018 では「AeroFarms」という企業の例が紹介されました。同社は農作物を建物内で栽培する屋内垂直農場を経営している米ニュージャージー州の企業です。IoT を活用して13 万にも上るデータポイントから栽培物のデータを収集・分析し、LED の照射などを最適化することで、使用する水は通常の畑での栽培よりも95%減らしつつ、収穫量は390倍にまで高めています。このような革新的な農業ビジネスが、デジタルトランスフォーメーションによって実現しているのです。AeroFarms の屋内農場では、当社が提供するエッジコンピューティング端末やデータアナリティクスツールなどが利用されています。

 IoT が普及している現在は、第四次産業革命が進行していると見なされています。第四次産業革命では、物理の世界とデジタルの世界が融合し、さまざまな変革が引き起こされます。この世界では、手入力によるデータが1%にとどまる一方で、IoT によってモノから生成されるデータが99%にまで拡大すると予測されています。

 このような世界では、経営からビジネス現場、そしてIT 部門へと意思決定が落とし込まれる従来のウォーターフォール型のビジネスでは対応が難しくなっていきます。必要とされるのは、経営からビジネス現場、そしてIT 部門が一体となって連携するイノベーション型のビジネスです。それは、経営側が策定するビジネス戦略と、ビジネス現場が利用するアプリケーションやIT 部門が整備するインフラなどの技術戦略が一つになることを意味しています。すなわち、技術戦略こそがビジネス戦略になるのです。

DX を導く技術の5大トレンド

 現在進行しているデジタルトランスフォーメーションは各企業にとってもっとも重要な技術戦略です。このデジタルトランスフォーメーションにつながる技術の5 大トレンドとしてDell Technologies が認識しているのは、「VR / AR」「IoT」「マルチクラウド」「SDE(Software-Defined Everything)」「AI /機械学習」です。

 VR / AR は、没入型・協同作業型コンピューティングとして活用されていくでしょう。ガートナーによると、2020 年までに大企業の20%がVR / AR を導入すると予測しています。VR は教育用途、AR は現場作業用途などへの利用が想定されます。VR は遠隔地との共同作業にも利用されていくでしょう。IoT はすでに触れたように、物理とデジタルの世界をつなぐ技術として、利用分野が拡大しています。

 マルチクラウドは、クラウドサービスの使用目的や経済性の側面から導入が加速していくでしょう。そして、柔軟性や管理運用性を向上させる技術として、あらゆるインフラがSoftware-Defined に変化するはずです。AI や機械学習は、ユーザー体験や業務プロセス、社会基盤までを最適化させるコア技術になるでしょう。

 AI をロケットに例えるならば、データが燃料であり、コンピュートがエンジンになります。このロケットを支える仕組みをDell Technologies は提供していきます。

AeroFarms は、主要な流通ルートや人口中心地に農場を建設することで、伝統的なサプライチェーンとは一線を画す、全く新しい仕組みを構築している。

2. Server

多様化するコンピュートニーズに対応

渡辺浩二 氏
デル 製品本部&プランニング部長
インフラストラクチャ・ソリューションズ事業統括

 デルが提供するサーバーはグローバルでトップのシェアを獲得しています。それは、年間45 億ドルものR&D 投資や2 万1,000 件の特許などに支えられています。

 さまざまなお客さまのニーズに応えられる幅広いポートフォリオも特長です。競合他社が売れ筋のラインアップに絞る傾向が強まっている中で、デルはスモールビジネスから超大規模データセンターまでのあらゆるコンピュートニーズに適応するサーバー製品を用意しているのです。

 ポートフォリオの広さは多様化するニーズへの対応の結果でもあります。ラインアップが少ない場合、オーバースペックの提案になりがちで、エンドユーザーにとってはコスト高につながってしまいます。適材適所で選択できる幅広いラインアップが揃っていれば、エンドユーザーはワークロードに最適な製品の選択が可能になるのです。

 VR / AR などのデジタルトランスフォーメーションを実現する技術が普及し始めている中で、サーバーはそれらを支えるベッドロック(岩盤)と位置づけられます。このような環境では、従来のサーバー、ネットワーク、ストレージという3階層のシステムから、それらが一体となったコンピュートノードが求められるようになります。

 コンピュート自体に求められる技術要素は、強力なパフォーマンス、アクセラレーターの複数搭載、密度・拡張性、冷却性、管理性です。そこでデルでは、サーバーのパフォーマンスを引き上げるために、NVMe SSD への対応を強化しています。また、多数のGPU やFPGA への対応によって、大量データの高速処理性能も実現させているのです。

 ファンの効率的な稼働とエアフローの徹底改善で可能にした高密度設計は、搭載コア数やメモリー容量の拡大に貢献しています。iDRAC などに代表されるシステム管理機能は、導入から運用、廃棄、セキュリティまでの管理効率を向上させているのです。

AI 活用を加速する4 ソケットサーバー

 コンピュートに求められる技術要素が全て注ぎこまれたサーバーの新製品として、デルは4 ソケットサーバーの「PowerEdge R940xa」と「Dell EMC PowerEdge R840」を発表しました。4 ソケットサーバーは、強力なパフォーマンスで注目されている製品です。コア数もメモリー容量も2ソケットサーバーの約1.5 倍で、パフォーマンスの飛躍的な向上が可能です。

 最大四つのCPU と四つのGPU を1:1 の比率で統合できるDell EMC PowerEdge R940xa は、機械学習用途に適しています。一方、データアナリティクス用途を想定したDell EMC PowerEdge R840 は、最大24 本のNVMe ドライブが搭載可能です。GPU とFPGA のマルチ搭載で高負荷ワークロードにも対応します。

 今年の下半期には、モジュール型サーバーである「Dell EMC PowerEdge MX」の発表も予定しています。これらの革新的な製品の提供で、お客さまのデジタルトランスフォーメーションを支えていきます。

4 ソケットサーバーのPowerEdge R940xa。機械学習用途に適している。

3. Storage

SCM 対応のTier 0 ストレージを提供

相良鉄兵 氏
EMC プライマリーストレージ事業本部 マネージャー

 企業システムの燃料となるデータの価値を最大化するためには、データの分析・処理速度の高速化とインテリジェンス(AI /機械学習)の実装がストレージに求められます。データの分析・処理速度が高速化できれば、より多くのデータセットやアプリケーションワークロードの統合的な管理が可能になります。また、ストレージ内部のデータ処理を自動化できるAI や機械学習機能を実装できれば、運用管理の工数を最適化させる予測分析や予見・予知が実現します。

 これらの要求を満たす製品としてデルが提供を開始したのが「Dell EMC PowerMax」です。Dell EMC PowerMax は、従来から販売しているハイエンドストレージ「Dell EMC VMAX」の上位モデルとなります。業界最速性能でミッションクリティカルの領域に位置づけられるTier 0 ストレージです。

 データの分析・処理速度の高速化において鍵となるのは、SAS で発生するプロトコルサイドのオーバーヘッドを払拭できるNVMe です。さらに、SCM(Storage Class Memory)という高速メモリーも登場してきていますが、Dell EMC PowerMax はNVMe とSCM のどちらにも対応するストレージとなります。最大で1,000 万IPOS を実現し、レスポンスタイムは従来製品と比較して50%向上しています※。仮想化基盤やデータベースからモバイルアプリケーションやAI / IoT 基盤としてフル活用できるのです。また、Dell EMC PowerMax は、SCM だけでなく今後標準化されるNVMe-over-Fabrics にも対応します。ここまでできるストレージアレイはほかにありません。

世界最速のストレージアレイと称されるDell EMC PowerMax。

機械学習機能をOS に実装

 Dell EMC PowerMax は、SCM を効率的に利用できる点も大きな特長です。ストレージで最大90%のIO を発生させているのは、最大10%のデータです。この10%のデータをSCM に適用していくために、Dell EMC PowerMax が利用するのがリアルタイムの機械学習です。Dell EMC PowerMax では、機械学習の機能をOS 内に実装させているのです。

 予測分析とパターン認識を活用するDell EMC PowerMax の機械学習機能は、リアルタイムで4,000 万データセットの分析を実現します。パフォーマンスの最大化を実現するために、1 日に60 億回の意思決定をシステムオーバーヘッドなしで推進できるのです。

 Dell EMC PowerMax には、処理性能や容量などが異なる「Dell EMC PowerMax 2000」と「Dell EMC PowerMax 8000」がラインアップされています。機能はいずれも変わりません。従来製品である「Dell EMC VMAX」も引き続き販売します。Dell EMC PowerMax とDellEMC VMAX は、適材適所で使い分けていただくイメージです。

 オールフラッシュストレージとして提供してきた「Dell EMC XtremIO」には、エントリークラスの「Dell EMC XtremIO X2-T」がラインアップされました。従来製品の「Dell EMC XtremIO X2」と比較して価格を23%抑えたモデルとなります。SSD は36 ディスクまで拡張が可能です。スケールアウトが必要な場合は、上位モデルの「Dell EMC XtremIO X2-R」へのアップグレードで対応できます。

 XtremIO に搭載されているOS は「XIOS 6.1」にアップデートされています。従来まではデータサービスをほとんど実装していなかったのですが、今回からレプリケーション機能が搭載されています。もともと重複排除に長けた製品なので、データ容量を大幅に削減した状態でデータ転送が実現します。ターゲットサイトの容量やWAN 回線の負荷を低減できるため、コストを抑えたレプリケーションを可能にするのです。

4. A I

AI /機械学習のためのReady Solution

馬場健太郎 氏
デル インフラストラクチャ・ソリューション事業統括
パートナー営業本部 本部長

 Dell Technologies World 2018 では、AI がロケットにたとえられました。企業にとってこれからはAI や機械学習の活用が大きなテーマとなります。しかし、それらの活用には課題が多いのも実情です。現状ではデータから知見を得るためのプロセスが複雑で難しく、使いこなせるユーザーはまだまだ少数です。パブリッククラウドサービスでAI の機能を提供しているベンダーも存在しますが、AI の学習に必要な大量のデータのアップロードにコストがかかるという問題も発生します。そのため、AI や機械学習を活用したいけれども、どこから始めたらいいのか分からないというケースが多く存在しているのです。

 デルはこのような状況を打破するために、AI や機械学習を簡単に利用できる“Ready Solution” を用意します。Ready Solution は、Dell EMC PowerEdge サーバーに、ソフトウェア、ライブラリーとフレームワーク、サービスを組み合わせて最適化した検証済みのソリューションとなります。

あらゆる産業でAI の民主化を図る

 デルが用意するReady Solution は、「Dell EMC Ready Solutions for AI / ML / DL」として三つラインアップします。
 一つ目は、「Dell EMC Machine Learning Ready Bundle with Hadoop」です。これは、Hadoop とApache Spark によって、大量のデータ処理とインメモリーによる高速処理を可能にした基盤上に、分散深層学習ライブラリー「BigDL」を組み合わせることで、データをためつつ深層学習によるデータ分析を高速に行えるようにするソリューションです。

 データをためるところから可能なDell EMC Machine Learning Ready Bundle with Hadoop は、販売パートナーの皆さまにとって、おもしろいソリューションになるでしょう。オプションで機械学習の自動化プラットフォーム「DataRobot」を組み合わせることも予定しています。これによって、誰もが簡単にデータ分析を行える環境が整備できるのです。

 二つ目は「Dell EMC Deep Learning Ready Bundle with Intel」です。これは、Intel Nervana Deep Learning Studio などで、深層学習を手軽に行えるようにするソリューションです。三つ目は、「Dell EMC Deep Learning Ready Bundle with NVIDIA」です。GPU に「NVIDIA Tesla V100」、GPU 間の接続には最大300GB/s のスループットを実現する「NVIDIA NVLink」を採用するソリューションです。GPU 非搭載の基盤よりも30 倍のパフォーマンスを実現するなど、高度なデータ分析を必要とするユーザー向けのソリューションになります。

 デルはこれらのReady Solution で、製造業や通信事業者をはじめとして、あらゆる産業に対してAI /機械学習の民主化を図っていきます。

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