[ DISわぁるど in とちぎ宇都宮 ] セミナー・パネルディスカッションレポート

【パネルディスカッション】農業革命

栃木県 農政部 農政課 農政戦略推進室 室長 金原啓一氏

栃木県 農政部 農政課 農政戦略推進室 室長 金原啓一氏

国立大学法人宇都宮大学大学院 工学研究科 機械知能工学専攻 教授/博士(工学) 尾崎功一氏

国立大学法人宇都宮大学大学院 工学研究科 機械知能工学専攻 教授/博士(工学) 尾崎功一氏

スタンシステム株式会社 代表取締役社長 眞鍋 厚氏

スタンシステム株式会社 代表取締役社長 眞鍋 厚氏

株式会社セラク みどりクラウド事業部 事業部長 持田宏平氏

株式会社セラク みどりクラウド事業部 事業部長 持田宏平氏

インテル株式会社 執行役員 セールス・チャネル事業本部 本部長 井田晶也氏

インテル株式会社 執行役員 セールス・チャネル事業本部 本部長 井田晶也氏

スマート化で栃木県の主力産業である農業を守る

 今年のDISわぁるどの開催地である栃木県の注力産業は農業だ。そこで農業にICTを活用して課題を解決あるいは新たな価値を生み出すスマート農業の全国の事例を紹介しながら、農業におけるICT活用について意見を交換した。

 まず栃木県 農政部 農政課 農政戦略推進室 室長 金原啓一氏が栃木県の農業の現状について説明した。栃木県は平坦な土地が多く、もともとは水田が多かったが酪農も盛んで園芸の生産も伸びている。一方、米の消費減少等により米作は減ってきている。

 現在では米麦、園芸、畜産で偏りがなくバランスの取れた生産構造が実現されており、農業産出額は全国9位の規模となっていると説明した。その中でも栃木県が全国に誇るのがいちごの栽培だ。

 栃木県のいちごの生産量、栽培面積、産出額はすべて全国1位でシェアも大きい。いちごは農業だけではなく観光や関連産業にも貢献している。これまで「とちおとめ」が有名だったが、新品種として「スカイベリー」を開発した。

 栃木県における農業の重点的・戦略的な取り組みとして「スマート農業とちぎへの挑戦」がある。これは先進技術を活用した農業生産システムの開発と先進的な農業生産技術の普及を目指したプロジェクトだ。

 金原氏は農業ではICT活用が遅れており、県だけで開発するのは難しい。新技術の開発には産官学連携が必要だと訴えた。

 そしてスマート農業への理解を深め実践を促進するために、フォーラムや研修会も開催している。例えば「スマート農業とちぎ推進フォーラム」」「スマート農業とちぎ現地検討会」などを開催した。

 また「とちぎスマート土地利用型農業研修会」では無人トラクターや随伴型トラクターのデモンストレーションを実施し、多くの農業関係者が参加した。参加者からは多少高価でも導入したいという声も聞こえ、手ごたえを感じたと強調した。

 このほかいちごの新品種であるスカイベリーの安定生産のため、ICTを活用して栽培環境を監視・記録するとともに、生産者がスマートフォンやタブレットから県内の優良事例の栽培環境を参照できるようにするなどの取組を進めている。

作物の価値を高めるためのスマート農業

 栃木県の農業を代表するいちごの価値を向上させるためにICTとロボット技術を活用しているのは、国立大学法人宇都宮大学大学院 工学研究科 機械知能工学専攻 教授/博士(工学) 尾崎功一氏だ。

 いちごは実に手で触れると痛むほどデリケートだという。そのためパックにたくさんのいちごを詰めることも、実同士がぶつかりお互いに痛めてしまうことになるのだという。

 しかし収穫は人手で行うしかなく、どうしても実に手が触れてしまい痛みの原因になる。この痛みによって味も低下してしまうため、いちごの価値が低下する。そこで尾崎氏はロボットとICTを活用した自動栽培システムの開発に取り組んでいるという。

 栽培に必要な情報を得るためのセンサーを設置し、それに応じた作業をロボットで自動化し、高い品質のいちごを安定して無人で生産することを目指している。また収穫も人手を使わないことからいちごを傷めなくて済むという。

 尾崎氏はいちごを1個ずつ梱包するパッケージを開発していちごを理想的な状態で流通させることにも取り組んでおり、国際味覚審査機構(iTQi)において2016年に三ツ星を受賞するとともに、高価ないちごを日本橋三越本店で完売させるなど価値向上にも成功している。

人口環境の利点を生かした植物工場の可能性

 青色LEDの開発で有名な企業がある徳島県のスタンシステム株式会社では、LEDライトを利用した植物工場自動栽培システム「Smart Plant」を数年前より開発、進化させている。

 同社の代表取締役社長 眞鍋 厚氏はSmart Plantを開発した理由について、農業は管理がしづらい。天気や気温の変化に対応できず被害を受けてしまう。しかし人口的に作り出した環境ならば環境をコントロールでき、リスクを減らすことができると「植物工場」のメリットを強調した。

 さらに人口環境ならば無菌を実現できるので農薬を使わずに済むという長所もある。また環境を意図的に作り出すことで、作物の品質をコントロールすることも可能だという。具体的にはLEDライトの光の色や光量、照射時間等の管理だ。

 眞鍋氏はLEDライトの色、すなわち波長や光の強さ、光を当てる時間などをいろいろと変えて実験することで、最適なレシピを見つけ出している最中だという。LEDライトの光によって食物たんぱく質の働きをコントロールすることで、成長のスピードもコントロールできるという。このレシピデータを作物ごとに作り出せれば、効率よく作物を生産できると説明する。

 ただし実用には課題もあるという。設備が高価で、栽培面積を大きくしにくいからだ。そのため小さな面積で収益性の高い作物、例えば薬草を生産するのに向いていると説明した。

スマート農業の導入障壁を壊すソリューション

 スマート農業の課題はシステムが大規模で複雑であり、そのため導入コストが高く、システムを利用するにはトレーニングが必要となる。また既存施設への導入も困難だと指摘するのは、株式会社セラク みどりクラウド事業部 事業部長 持田宏平氏だ。

 持田氏は農業生産においてITが果たせる役割について農業を可視化してノウハウを共有するための計測と記録、そして作業の省力化と生産効率を向上させるための判断と制御の大きく二つに分けられると説明。

 そこで持田氏はまずは計測と記録だけをITで自動化することを提案する。セラクが提供する農業ITは環境モニタリングに特化し、汎用ハードウェアやスマートフォン、クラウドを活用して低コストを実現していることが魅力だ。

 本体はコンパクトで設置も簡単、コンセントに挿すだけですぐに使えるという。センサーボックスは68,000円から、クラウドサービスは月額1,280円から利用できるなど、導入コストもランニングコストも低く抑えられている。しかしながら豊富な機能を備えており、すでに全国で数百台が稼働している。

インテルによる国内最新スマート農業事例

 少子高齢化が進むこれからの社会において、人手を必要とする農業を効率化していかないと食料自給の問題が深刻化するとともに、農地がある地方の衰退も心配される。

 世界のさまざまな地域でICTやIoTを活用して地域課題の解決に向けた実証実験に数多く携わってきたインテルでは国内の農業でもIoTを活用した実証実験を実施している。

 インテル株式会社 執行役員 セールス・チャネル事業本部 本部長 井田晶也氏は、大阪府泉佐野市における高床式砂栽培でのIoTを活用したスマート農業の実証実験を紹介した。

 井田氏は砂栽培では水と培養液によって作物を育てるため、栽培環境を安定させやすい利点がある。その農地にセンサーを設置して水分量やpH値、温度や湿度などをリアルタイムでモニタリングする。

 同時に熟練農家による栽培管理のノウハウをデータ化してレシピデータを作り出し、そのレシピデータとセンサーから得た情報に基づいて水と培養液を農地に自動的に潅水する仕組みだ。またハウス内のファンやパワーウィンドウもセンサー情報とレシピに連動して自動的に制御し、農産物に適した環境を常に維持している。

 農業の現場では人手不足や異常気象などが経営リスクとなっており農業の継続も懸念されているが、レシピデータとセンサー情報による栽培環境の自動制御によって熟練農家が持つ勘や経験を必要とせず、誰もが農業に参入できるようになる。

 最後に井田氏はこの実証実験の効果を支えるレシピデータについて、農地の気象条件や天候条件に合わせて最適化することができ、他の場所でも同じ環境で作物を栽培できるとアピールした。

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