[ DISわぁるど in とちぎ宇都宮 ] セミナー・パネルディスカッションレポート

【特別講演】
デジタル変革/IoTによる新たな地域価値の創造

シスコシステムズ合同会社 専務執行役員 パートナー事業統括 高橋慎介氏

シスコシステムズ合同会社 専務執行役員 パートナー事業統括 高橋慎介氏

ITのユーザーがプロバイダーになる変化

 デジタルトランスフォーメーションがもたらす革新を享受できるのは都市だけではない。地域でもネットワークやIoTなどの最新テクノロジーを活用することで地域課題の解決や地域の利便性向上、観光産業の振興といった地方創生につながるさまざまな効果が期待できる。

 グローバルでネットワークを中心に最新テクノロジーを活用した幅広いソリューションを提供しているシスコシステムズも、日本の各地で地方創生に役立つソリューションを提供している。

 登壇したシスコシステムズ合同会社 専務執行役員 パートナー事業統括 高橋慎介氏はまず最近のICT業界の傾向について、アメリカのGE(ゼネラル・エレクトリック)は、本来はITを導入して活用するユーザー企業であったが、現在では自らITを構築してそのノウハウを「インダストリアル・インターネット」というビジョンで世界に発信している。

 またアマゾンはECサイトを運営するためにITを導入・活用するユーザー企業であったが、現在では巨大なデータセンターを建設、運用し、その資産を活用してグローバルでクラウドサービスを提供している。

 このほか自動車業界でも急速に電気自動車への切り替えが進みつつあり、どの産業においても大きな変化が起こっている。

IoTは新しい分野でIT活用の商機を広げる

 これからの時代はどの企業が生き残り、どのような業態に変化するのか、市場の変化も含めて予測が極めて困難になっている。

 将来はトップ企業の40%は入れ替わり、トップだった企業がなくなってしまうかもしれない。企業だけではなく業界ごとなくなることも考えられる。

 こうした予測できない変化に対応するためにシスコシステムズでは業界や分野でトップの事業だけを展開している。トップの事業をM&Aで強化する場合もあれば、自社で研究・開発して強化する場合もある。そして3位以下になる事業は切り離している。

 さらにシスコシステムズでは従来のITパートナー以外の領域でもパートナーシップを組んでビジネスを広げている。例えば製造業のIoT化推進と製造業向けのクラウドサービスの開発に向けてヤマザキマザックと協業するなど、ビジネスを新しい領域に拡大している。このようにIoTはこれまでITを積極的に活用してこなかった分野でも、IT活用の商機を広げることができるのだ。

地方創生を支援する地域IoT活用の実例

 高橋氏はシスコシステムズのビジネスへの取り組みを説明した後に、日本における地方でのIoT活用支援について事例を交えて紹介した。まず地方創生におけるIoT活用にはテレワークやサテライトオフィス、遠隔医療や介護、保育、防災・減災、地方中小企業へのICT活用支援などのテーマがある。そして最大のテーマとなるのが2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて拡大するインバウンド需要への対応だ。

 そうした地方創生におけるIoT活用の実例として京都府との包括的な提携によるIoT活用による地域課題の解決を紹介した。

 京都府が進めるプロジェクト「コネクテッドシティ」では、シスコシステムズが海外、国内で取り組んできたスマートシティにおける経験とノウハウが生かされている。

 例えば京都には清水寺や金閣寺以外にもたくさんの魅力的な観光地があるので、それらを案内するタッチパネルを採用したデジタルサイネージを利用するバーチャルコンシュルジュの実証実験を実施した。

 また京都府木津川市ではスマートライティングなどいくつかの重要な実証実験を実施している。スマートライティングは市内の街灯を遠隔で監視・運用するシステムで、カメラを設置して街灯の周囲を映像監視もしている。

 また通行量を計測して分析することで街灯の点灯の無駄を省いたり、防犯対策として街灯を点灯したりするなどの機能も検証している。

 そしてスマートライティングや通行情報分析システムなど複数のシステムを一元表示して管理・運用できる統合プラットフォーム、コネクテッドデジタルプラットフォームも検証されている。

地域IoTには共通基盤の構築が有効

 高橋氏はこのほか佐賀県でのワークスタイル変革や北海道ニセコでのデジタルサイネージとフリーWi-Fiによる情報発信、帯広市での地域行政基盤を支えるネットワークの安全性強化などの事例を紹介した。

 特にユニークだったのが山口県萩市に提案しているという決済サービス「町ごとルームサービス」だ。萩市は明治維新の偉人を輩出し、何名も首相を生み出したことで知られ、観光地も豊富だ。ところがクレジットカードが使えない店舗が多いという。

 そこでクレジットカードが利用できるホテルと店舗が提携し、宿泊客が店舗でスマートフォンのアプリから決済するとホテルに課金され、店舗はホテルに請求する仕組みだ。これなら店舗がクレジットカード会社と契約をしなくて済む。

 高橋氏は利権を持っている人がそれぞれアイデアを持っている。それらを個別に局所的に投資すると無駄が生じる。グランドデザインを描いてそれを実現するための共通基盤を構築することが有効だという。その上にさまざまな機能やサービスを実現してコネクテッドデジタルプラットフォームで統合的に運用・管理するべきだと強調した。

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