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とよぢぃのねっとあっぷ四方山話 第7回

とよぢぃのねっとあっぷ四方山話

DISのとよぢぃと申します。
『ねっとあっぷ四方山話・コラム(1)』をお届けします。

コラムシリーズではネットアップにまつわる非技術的な話題を読み物としてご提供していこうと思います。
ちょっと疲れたなぁ、みたいな時にでも読んでいただけると嬉しいです。ということで、最初のコラムではネットアップと言う会社の生立ちをご紹介します。

ネットアップはまだ創立33年ほどの会社ですが、いくつかの時期に分けて全2回でご紹介していこうと思います。

コラム(1)

■ Network Appliance 降臨
■ 創成期 Data ONTAP 5.x まで
■ 成長期 Data ONTAP 6.x
■ 第1次転換期 ONTAP 7G

コラム(2)

■ 第2次転換期 ONTAP 8
■ NetApp 昇天 ONTAP 9
■ NetApp 再降臨 ASA r2

では、ネットアップ史の始まり始まりぃ、っと。

Network Appliance 降臨

NetApp社(設立当時はNetwork Appliance社)は、いわゆるベンチャー企業の一つとして 1992年にできました。
創設者はDave HitzとJames Lauの2人と思われている方も多いようですが、実はもう一人Michael Malcolmという方も創設者の1人です。なので、いわゆる創設者はDave、James、Michaelの3人というのがせーかいです。

1992年と言えばSun Microsystems(1982年設立)がワークステーションと呼ばれる小さなコンピュータでUnixベースのSunOSと呼ばれるOSに実装したNFSによる分散環境を武器に台頭した時代。

また、それに対抗するように高速のNFSサーバを売りにしていた Auspex Systems(1987年設立)がこの市場で元気に活躍していた時期でもあります(残念ながら両社ともすでに存在してませんが)。そんな中に同じNFSサーバを引っ提げてNetAppは殴り込んだわけです。
なのでNetAppはこの市場では少しばかり後発だったことになりますが、後発であるが故の有利さを生かしてこの市場のトップベンダーに躍り出たことになります。

さて、3人の創設者ですが、James Lauは2015年に、Dave Hitzは2019年にそれぞれNetAppを離れています。そしてもう一人の創設者Michael Malcomは実は創設後間もない1994年にNetAppを離れ、1996年にはCacheFlow、後のBlue Coat Systemsを立ち上げています。そして、Blue Coatは後にNetCacheと呼ばれるNetApp製品の1つを敵対的(なのかな?)買収しています。ちなみに創設者のJamesと創設者では一番最後までNetAppに在籍していたDaveですが、実は2人ともAuspex Systemsのエンジニアでした。

また、Sun Microsystemsからも多くの開発エンジニアがNetAppに移っていて、その中にはNFSの設計や開発の中核を担っていたエンジニアも含まれています。この業界、時代や場所を問わず狭いなぁ、と感じてしまうのは私だけでしょうか。

創成期 Data ONTAP 5.x まで

さて、1992年の創業から2000年くらいまでを創成期と呼ぼうと思います。NetApp独自のストレージOSはData ONTAPと呼ばれますが、Data ONTAPのバージョン5.3.7がこの時期の最後のリリース。このバージョンのData ONTAPや当時のハードウェアは非常に安定していて1000日以上無停止で連続稼働していたシステムが世界中にいくつもありました。Data ONTAPにはAutoSupportという仕組みがあり、フィールドで稼働しているシステムの約1/3のシステムからuptime等を含む稼働状況がメールでNetAppに通知されていて、当時はそれらを集計したものがNOWサイト(NetApp on the Web、現在のSupportサイト)で公開されていて、閲覧することができました。

F700シリーズの正面写真

なので、1000日以上連続稼働というのは単なるメーカの宣伝文句ではなく、事実として確認することができました。AutoSupportの仕組みは今も健在なんですが、残念ながら現在のSupportサイトにはAutoSupportの集計情報は掲載されていないので現在のシステムの稼働状況は確認できません。

このころの製品は、ハードウェア、ソフトウェアともまだSAN(iSCSIやFCP)には対応してなかったため、当時の製品は「Filer(ファイラー)」と呼ばれていました。
ファイルアクセスのみだったのでファイラーなんですね。
この時期のフラグシップはF760でF700 シリーズの最上位モデルになります。

さて、Data ONTAPについて少し紹介しておきましょう。「Network Appliance降臨」のところでも触れた通り、NetAppは当初NFSサーバ製品をリリースしていましたが、このころにCIFS/SMBがData ONTAPに実装され、現在のマルチプロトコル/ユニファイドストレージの基礎を築いた時期とも言えます。

そぉそぉ、Data ONTAPはコマンド体系(名)が似ていることからUnix系のOSと思われがちですが、主要な部分はNetApp社が独自に開発したストレージ専用OSです。WAFL(Write Anywhere File Layout)と呼ばれるファイルシステムやSnapshot機能などが独自開発部分になります。
そして2000年の後半にData ONTAP 6.0がリリースされ、プラットフォームもF700シリーズからF800シリーズに移行し、次の成長期に入っていきます。

成長期 Data ONTAP 6.x

2000年代当初にData ONTAP 6.0がリリースされ、約6年間続く成長期に入ります。この時期の目玉は大きく2つ。

一つめの目玉はData ONTAPによるSANのサポートです。
iSCSIとFibre Channel(FC)の両方をこの時期に実装して、それまでのNFS/CIFSによるファイルアクセスだけでなく、iSCSIやFCPによるブロックアクセスを1つのシステムで同時に使えるようにしました。業界で最初のユニファイドストレージの登場です。SANのブロックアクセスではLUNと呼ばれる論理ユニット(仮想ディスク)が必要になりますが、特別な仕組みを導入するのではなく、WAFL上の一つのファイルをLUNとしてホストに見せるような仕組みでSANを実現しています。

ちなみにですが、実は、当時からNetAppのエンジニアもiSCSIの標準化作業に参加してたりするんですね。NetAppって決してNASだけではないんですよ!

F800シリーズの最上位モデルF880の 正面写真

もう一つの目玉は2004年のSpinnaker Networks買収。Spinnakerは現在のONTAPのクラスタ(c-mode、HAではなく)にあたる機能を実装していたストレージベンダーです。
NetAppもクラスタ化したストレージを出すことを目的に買収しました。ただ、OS の構造(アーキテクチャ)が全く異なるものだったので、Data ONTAPをクラスタOS化するにはずいぶんと時間を要しましたが、現在のNetAppのクラスタの始まりはここにあります。
Spinnaker買収後、ほどなくONTAP GXなるシステムがリリースされましたが、OSをクラスタ化した物ではなく、二つのアーキテクチャの異なるOSを組み合わせたシステムだったために、使い勝手も決していいものではなく、すぐになくなってしまいました。

ローエンドモデルのF87

また、RAID-DPがData ONTAPに実装されたのもこの時期です。性能面で実用に耐えることができたRAID-6の実装はNetAppのRAID-DPだけだった、と言っても過言ではないですね。NetAppのRAIDはすべてソフトウェア的にOSに実装されているので、特別なハードウェアを追加しないといけないとか言うこともなく、OSをバージョンアップすればすぐに使えると言うのが非常に大きなメリットになります。

ソフトウェアRAIDは今でも受け継がれています。
ハードウェア面では、F800シリーズで幕を開けた成長期ですが、これ以前にはなかったローエンドモデルであるF85/87がF800とほぼ同時期にリリースされています。
その後のモデルではSANをサポートしたことでモデル名がFxxxからFASxxxに変わります。ちなみみ「F」はFilerの頭文字で、「FAS」はFabric Attached Storageの略です。

第1次転換期 ONTAP 7G

時期的に少し成長期とかぶってしまいますが2005年から2010年くらいまでを第1次転換期と呼ぶことにします。
Data ONTAP 7.x (ONTAP 7Gと総称されることもあります)がこの時期を形成します。これまでのONTAPはストレージを物理的なものとして制御していました。ディスクの集まりがRAIDグループ、RAIDグループの集まりがボリュームといった具合です。

第1次転換期 ONTAP 7G

しかし、このころからディスク1台の容量がどんどん大きくなってきて、ディスクの集まりをボリュームとして管理することしかできないと、小さなボリュームがたくさん必要となるような環境ではうまく対応できないことが多く、あまり便利とは言えなくなってきました。ONTAP にはqtreeと呼ばれる仕組みもありますが、それだけでは不十分だったのです。

そこで ONTAP 7Gで導入されたのが「Flexible Volume」あるいはちょっと短くして「FlexVol」と呼ばれる仕組みです。これまでRAIDグループの集まりをボリュームとしてアクセスしていましたが、ONTAP 7Gではこれを「アグリゲート(Aggregate)」と呼び、その上に論理的にボリュームを構成しました。これが「FlexVol」です。

FlexVol

なんだかすごく大きなソフトウェア的な変更が必要そうですが、実はベースはすでにあった仕組みだと思われます。それはONTAP 6.xで導入されたSANで使用するLUNです。SAN環境ではLUNをホストコンピュータがマウントし、そこにホストコンピュータのOSでファイルシステムを作って使用するのが一般的です。ONTAP 7GではLUNにONTAPのファイルシステムであるWAFLを構成し、自分自身でそれをマウントするようにしました。これがONTAP 7GのFlexVolの実装なんじゃないかと容易に想像できるわけです。残念ながらこの想像を裏付けるような技術資料などは公開・提供はされていませんが、まぁ、大きく間違っていることはないと思っています。FlexVolの実装・導入によってONTAPの持ついろいろな機能がハードウェア(ディスクのサイズ)に縛られることなく非常に便利に使えるようになったわけです。

FAS900シリーズ

また、この時期には、非常に多くのプラットフォームがリリースされています。
最初のFASを冠したモデルのFAS900シリーズとローエンドのFAS250/270から始まり、さらにこの時期の後半ではローエンドとしてFAS2000シリーズ、ミッドレンジはFAS3000/3100シリーズ、ハイエンドはFAS6000シリーズと拡充され、お客様が必要とするワークロード(容量や性能)に応じて選択できる機種の幅が大きく広がりました。

そうそう、それからこの時期の忘れてならない大きな転換点がもう一つ。社名が変わったことです。第1話でも書きましたが、設立当初の社名は「Network Appliance」ですが、2008年に、それまでは略称であった「NetApp」を正式に社名としました。そして、ロゴも少し遅れて変わりました。社名やロゴは以下のように移り変わってきています。

ネットアップ史の第1回はこの辺で。第2次転換期以降(2010年~)については次回のお楽しみ。
ではでは。

とよぢぃ