自然災害やサイバー攻撃への備えが不可欠 BCP・バックアップの実施で事業継続を実現

2024年1月に「能登半島地震」が発生してから、2024年4月には最大震度6弱を記録した「豊後水道地震」、2024年8月には最大震度6弱を記録した「日向灘地震」と複数の大地震が発生している。駿河湾から日向灘沖にかけてのプレート境界を震源域とする「南海トラフ地震」は今後30年以内に80%の確率で発生する予測であり、日本企業のBCP対策は急務となっている。そこで本記事では、全国の企業のBCP策定状況について、企業信用調査などを行う帝国データバンクに話を聞いた。

半数の企業が策定意向あり

2024年は1月に石川県で最大震度7を記録した「能登半島地震」が発生したほか、6月には大手企業が大規模なサイバー攻撃を受けるなど、企業活動に大きな被害をもたらす出来事が複数起きた年となった。そうした中で帝国データバンクは、BCP対策に対する見解について、全国の企業に調査を行った。なお調査期間は2024年5月20 ?31日、調査対象は全国2万7,104社、有効回答企業数は1万1,410社(回答率42.1%)だ。同社はBCPに関する調査を2016年以降毎年実施しており、2024年で9回目となっている。

本調査によると、BCPを「策定している」企業の割合は19.8%となった。2023年5月の前回調査から1.4ポイント増加し、過去最高の割合になったという。さらに「現在、策定中」の企業は7.3%、「策定を検討している」企業は22.9%で、BCPの策定意向がある企業は50%に上った。

都道府県別のBCP策定状況では、高知県が68.4%と全国で唯一6割超の数値となり、策定意向が最も高い結果となった。次いで静岡県が58.3%で、石川県が57.7%、富山県・愛媛県が共に57.6%と続く。この結果について帝国データバンク 情報統括部 情報統括課 主任研究員 池田直紀氏は、次のように分析する。「南海トラフ地震の被害が想定される地域では、策定意向が高い傾向となりました。高知県や静岡県はまさに南海トラフのライン上にあり、自治体さまの防災への意識が高いので、企業もBCP策定に関する意識が高くなっていると考えられます。また本調査は2024 年5 月に行ったため、2024年1月に発生した能登半島地震や、2024年4月に発生した豊後水道地震も結果に影響したとみています」

一方、策定意向が低い地域は、長崎県(36.1%)、秋田県(40.2%)、岩手県(40.5%)、島根県(41.1%)茨城県(41.7%)などがある。これらの地域の策定意向が低くなった理由について、池田氏はこう推測する。「直近で大きな地震や大雨による被害が少なかった地域は、策定意向が低くなる傾向にありました。過去に東日本大震災の被害を受けた宮城県も、47.7%と50%以下の数値になっています。直近に被害を受けた地域や、今後被害を受ける恐れのある地域の方が、災害は常に起きるという意識が高いのかもしれません」

中小企業の策定率は低い傾向

本調査では、企業規模別のBCP策定率も調べている。調査の結果、策定率は大企業が37.1%、中小企業が16.5%となった。大企業は2016年の調査から9.6ポイント上昇した一方で、中小企業の策定状況は低調となっている。「大企業の方がBCP策定が進んでいる結果になっています。大企業はサプライチェーンを抱えているため、企業活動ができなくなると、自社と関係のある企業にも影響を及ぼします。そのため、BCPは非常に重要だという意識が高いのだと考えられます。一方で、中小企業も徐々にBCP策定率が上がっていますが、大企業と比べるとまだまだ低いです。当社としても今後高くなってほしいと思っていますが、策定する費用を確保できなかったり、メインの業務に追われて策定する時間がなかったりといった課題があるようです。さらには自分の会社には関係ないと考えている企業もいるので、そうした意識が中小企業のBCP策定率が低い理由になっています」

では企業は、どのようなリスクで事業の継続が困難になると想定しているのだろうか。一番多い回答は「自然災害(地震、風水害、噴火など)」で、BCPの策定意向がある企業のうち、71.1%がリスクになると回答した。次に多い回答は「情報セキュリティ上のリスク(サイバー攻撃など含む)」で、44.4%だった。「7割以上の企業が、自然災害が一番のリスクだと捉えています。情報セキュリティも、昨今のさまざまな問題を受けて感度が高く出ている結果となっています」(池田氏)

想定するリスクは、BCPの策定意向がある企業全体と情報サービス業では異なる結果が出ているという。池田氏はその違いを次のように話す。「情報サービス業では、情報セキュリティ上のリスク(サイバー攻撃など含む)を想定する企業が最も多かったです。自然災害よりも数値が高くなっており、ほかの業種と比べてセキュリティリスクに対する感度が高いことが分かります。他業種よりも、サイバー攻撃に対する危機意識が高いのだと考えています」

事業中断リスクに備えたBCPの実施・検討内容については「従業員の安否確認手段の整備」が68.9%で最も高い結果となった。次いで高かったのが「情報システムのバックアップ」で、57.9%となっている。この結果も、全体と情報サービス業ではやや異なっているそうだ。「情報サービス業は、情報システムのバックアップに最も重点を置いている結果になっています。情報サービス業となると、自社のデータ以外に他社のデータを預かっている企業もあります。そのため、他業種よりもバックアップに対する意識が高くなっているのでしょう」(池田氏)

BCP 策定率の推移~規模別~
出所:事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査(2024 年)(帝国データバンク)

BCP策定率の推移 規模別
帝国データバンク 情報統括部 情報統括課 主任研究員 池田直紀 氏

帝国データバンク
情報統括部 情報統括課
主任研究員
池田直紀 氏

スキル・人材・時間が課題に

BCPの策定が進んでいない企業は、何が策定のハードルとなっているのだろうか。BCPを策定していないと回答した企業に尋ねたところ、最も多いのは「策定に必要なスキル・ノウハウがない」で41.6%だった。次いで「策定する人材を確保できない」が34.3%、「策定する時間を確保できない」が28.4%と続く。「スキルがない、人材がいない、時間がない、そして策定する費用を確保できないという理由は、例年調査を行う中で変わらない部分です。BCPの策定は企業価値を高めるために大事なことですが、売り上げには直結しません。そのため、どうしても優先順位が下がる傾向にあります。特に中小企業では『必要性を感じない』も大きな理由の一つになっています。従業員数が少ない会社ですと、代表が従業員に電話をすれば安否確認が取れると考えていたり、親会社が策定しているから必要ないと考えたりしているところもあります」(池田氏)

最後に池田氏は、BCPの策定について企業にこうメッセージを送った。「企業価値を向上させたり、企業活動を維持させたりするには、BCP策定が重要になってきます。直接売り上げにつながるものではありませんが、万が一の事態はどうしても起きてしまいます。小さな企業でも取引先とのつながりはあると思いますので、平時から非常事態に対する意識を持っておくことが大切です。まずは従業員と『緊急事態のときはどう対応するか』のような会話から始めてはどうでしょうか。そうした会話を一歩として、最終的には本格的な備えに向けた計画を作っていくことが大事です」