本記事の執筆・市場調査機関

企業概要:

株式会社ノークリサーチ
26年に渡り、日本の中堅・中小企業のIT活用に関する市場調査とコンサルティングを提供している第三者調査機関。

筆者略歴:

シニアアナリスト 岩上 由高(いわかみ ゆたか) 博士(工学)
ITアナリスト歴16年目。ジャストシステム、ソニーグローバルソリューションズ、ITベンチャー企業数社でシステム開発/運用、プロダクトマネージャ、CTOなどの経験を積む。そこで培った知見と人脈を生かしながら、幅広いIT活用分野における市場調査とコンサルティングに従事。

HCI(ハイパーコンバージドインフラ)は登場から既に5年余りが経過し、シンプルかつ拡張可能なサーバ/ストレージ環境として広く受け入れられています。今後は一般の中堅・中小企業においても導入が進むと予想されますが、その好機を確実に捉えるためにはユーザ企業の現状や課題に即したアプローチが不可欠です。本稿では中堅・中小企業の悩みを解決するHCI導入提案のポイントとは何か?を2024年に実施した最新の調査データから紐解いていきます。

HCIの導入割合は既に2割、
近い将来には5割近くに達する

まずは最新のHCI導入状況を確認してみましょう。以下のグラフは2024年3月に有効回答件数700社(年商500億円未満の中堅・中小企業が9割を占める)のユーザ企業に対して、HCI導入状況を尋ねた結果です。

HCIの導入状況

「導入済み」は18.0%と既に約2割に達しており、今後の導入が見込める「未導入&検討」(15.7%)と「未導入&予定」(12.3%)も加えた合計は46.0%となります。一方、「導入あり&廃止」は僅か1.6%に留まっており、HCIは導入後に挫折するケースが非常に低いことも確認できます。つまり、近い将来はHCIの導入率が5割近くに達する可能性が十分にあるわけです。

サーバ管理/運用の人材不足とHCIの関係

このようにHCIが広く受け入れられる最も大きな要因はサーバ機器とソフトウェアというシンプルな構成でありながら、拡張可能なサーバ/ストレージ環境を実現できる点にあります。以下のグラフはサーバ管理/運用における様々な課題を尋ねた結果の一部をHCI未導入の場合と導入済みの場合に分けて集計したものです。

サーバ管理/運用における課題

「サーバ管理/運用を担う社内人材が不足している」という課題を挙げる割合は「HCI未導入」では44.5%に達するのに対し、「HCI導入済み」では16.7%に留まっています。昨今では中堅・中小企業においても業務システムの処理量やデータ量が増加しており、複数のサーバでデータを共有する必要性も高まっています。ですが、これを従来のサーバ環境で実現しようとすると、ストレージのネットワーク(SAN)を介してデータを共有するための知識が必要となります。日頃から人材不足の課題を抱える中堅・中小企業には新たなスキルを持つ人材を採用/育成する余裕はありません。一方、HCIであれば複雑なデータ共有の仕組みを意識せずに、水平分散型で拡張性の高いサーバ/ストレージ環境を構築できます。このようにHCIは中堅・中小企業が直面している人材不足という悩みを解決する手段でもあるわけです。

クラウド移行が進むと逆にHCIの利点が認知される?

しかしながら、サーバ環境ではオンプレミス(オフィス内設置など)からIaaS/ホスティングといったクラウドへの移行も進みつつあるため、「サーバ機器自体の需要がそれほど伸びないのでは?」とお考えの方も少なくないかも知れません。

ですが、クラウドに移行した場合でも
「オンプレミスとクラウドの使い分けが難しい」
「オンプレミス/クラウド間のデータ連携が難しい」
「オンプレミスとクラウドで管理/運用の手法が異なる」(セキュリティやバックアップなど)
などの様々な課題があり、一旦はIaaS/ホスティングに移行したがオフィス内設置に戻すといった「オンプレ回帰」のケースも存在します。

以下のグラフはこうしたオンプレ回帰を経験したユーザ企業におけるサーバ活用方針が全体平均と比べてどのように変わってくるか?を示したものです。

サーバ活用における方針

オンプレ回帰した場合はサーバ管理の自動化やサーバ仮想化の適用に意欲的であることが確認できます。実際、IaaS/ホスティングでは仮想サーバの利用が基本であり、それらを管理する便利なツールも提供されています。つまり、オンプレ回帰とは単にクラウドから戻るだけではなく、クラウドの利点を経験したことによって、オンプレミスのサーバ環境でも同じメリットを享受しようとする動きなのです。こうした動きは実際にオンプレ回帰を行ったユーザ企業だけでなく、クラウドの利点を知識として得ているユーザ企業にも当てはまります。

そして、シンプルな構成でサーバ仮想化を実現することが可能であり、サーバ間のデータ共有と仮想マシン管理を統合的に管理することで自動化も行いやすいサーバ形態がHCIです。つまり、クラウド移行への関心が高まれば、それだけHCIの利点を実感するユーザ企業も増えていくことになるわけです。

中堅・中小向けHCI提案では
「小さく始めて、少しずつ育てる」を意識する

このようにHCIは中堅・中小企業が抱えるサーバ管理/運用における人材不足の有効な解決策であり、クラウドが持つ利点をオンプレミスのサーバ環境で実現する最適な手段でもあります。この点を訴求していけば、中堅・中小市場におけるHCI導入も更に拡大し、ユーザ企業が抱える課題も軽減されていくはずです。

最後に、「HCI導入で失敗しないための留意点は何か?」についても押さえておきましょう。以下のグラフはHCIに関する課題を尋ねた結果の一部を「HCI未導入」の場合と「HCI導入済み」の場合に分けて集計したものです。

HCIに関する課題

「HCI未導入」では「価格に見合う効果があるか分からない」という課題を挙げる割合が高く、「HCI導入済み」においては「小さなシステム規模には適していない」、「高性能かつ高価なサーバ機器が必要」、「データ容量と比べてCPUやメモリが余る」、「CPUやメモリと比べてデータ容量が余る」といった課題が多いことがわかります。

HCIの代表的なユースケースでは「グローバルなクラウドサービスで運用していたサーバ環境を数十~数百台の社内サーバに移行した」などの大企業の事例がどうしても目立ちやすくなります。また、利用するユーザ企業側も提案するIT企業側もサーバ機器のスペックには余裕を持っておきたいと考えるのが普通です。その結果、少し高いスペックを持つサーバ機器を選んでしまいやすく、導入前には「価格に見合う効果があるか分からない」という不安が生じ、想定したほどのスペックは必要ないことが導入後に判明すると、「小さなシステム規模には適していない」や「高性能かつ高価なサーバ機器が必要」という不満となって現れてくるわけです。

HCI活用が更に進んでサーバ機器を追加するようになると、「データ容量と比べてCPUやメモリが余る」や「CPUやメモリと比べてデータ容量が余る」といった課題が顕在化しやすくなります。これはサーバ機器単位でシンプルに拡張できるというHCIのメリットの裏返しであり、CPU/メモリとストレージのどちらか一方だけを増強することが難しいという構造的な課題でもあります。

こうした一連の課題を回避するために有効なのは「小さく始めて、少しずつ育てる」という提案です。最初の一歩としてWindows Server OSが備える機能を活用してHCI環境を検証することも検討の余地があります。現在では中堅・中小向けのHCIラインアップが充実してきており、2ノードから導入が可能で縦横のサイズが40センチ未満のコンパクトなモデルもあります。「CPU/メモリとストレージの一方が余ってしまう」という課題についても、別のクラスタ(HCI管理/運用の単位)とストレージを共有できる仕組みがあり、将来的には中堅・中小企業向けにも使いやすい形で提供されていくと予想されます。

このように中堅・中小企業向けに「小さく始めて、少しずつ育てる」ためのHCIラインアップは既に揃っており、今後も充実していくことが期待されます。現在、中堅・中小企業はサーバ管理/運用の人材不足に悩まされており、クラウド移行をすべきか?の判断にも苦慮しています。HCIはオンプレミスのシンプルな構成で様々な課題を解決できる有効な手段の一つです。HCIに関する最新情報を常にアップデートして、最適な導入提案を実践できる準備を整えておきましょう。